恐怖の瞬間

ある平日の夕方。
時刻は夕方だけどまだ日は出ていて、残暑が厳しく昼と余り変わらず明るい、
そんなある日の夕方。

数カ月に一度訪ねている街中の小さな雑居ビルの入口に立つと、ありふれたデザインの自動ドアがいつものように開く。外は明るすぎるほど明るいため、相対的に中は暗いが、いつものように足を踏み入れる。
そこは飾りの何も無い小さなホールになっていて、エレベータが2機働いている。特に何も考えず、まっすぐエレベータへ向かい、上りのボタンを押して前で待つ。
日が直接入らないためか、そこは外よりは多少涼しい。
階数表示のランプをぼんやり眺めていると、背中から突然その声はかかった。

「隠れんぼする者、この指止まれ」

若くない、どちらかと初老の女性の声。
全く人の気配もないところからの不意打ちに、ギクリとして振り返ると、右後ろ数メートルのところに歳は七十前という小柄な女性がニコニコ笑いながら立っている。
振り返った私と目が合ったはずだが、彼女は私など居ないかのように、どこかわからないところに向けて笑いかけていた……

外が明るいためか、幽霊や妖かしの類は思い浮かびませんでしたが、
「ボケてるおばあちゃん」という一番穏やかなところから、「ナイフを振り回す気の違った殺人鬼」というホラー映画ばりの想定まで、一瞬で組み上がる。
いずれにしても対応を誤れば付きまとわれるのは必至。
こんな時はどうすればいいんだ?ノって話を合わせるのがいいのか、それとも聞こえないかのように振る舞うのがよいのか?
早くエレベータ来いよ!とジリジリと待ちながら、でも、待てよ、エレベータに一緒に乗って来られても困るぞ、ここは一旦外へ出て、この人が何処かへ行ってしまうのを待つほうがいいんじゃないか?とか、実に色々なことが頭の中を駆け巡る。

その間、せいぜい1-2秒。
次の瞬間、何か小さなものが私の横をすり抜けて、彼女に飛び付く。
4, 5歳くらいの男の子。
気付かなかったが、入口を入って左手には、ポストがたくさん並んだ小部屋があって、男の子はその中から飛び出して来たらしい……

というわけで、私の恐怖は妄想でしか無かったのですが、
いやぁ、声がかかった時には、本当に怖かったです。

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