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翔田寛『誘拐児』



昭和21年、5歳の男の子が誘拐される。金は奪われ、男の子は戻らなかった。
それから15年後。
ある女が殺される。ある男は母が残した言葉を気に病んでいた。
やがて、誘拐と、殺人と、男の悩みは結びついて……というお話。
第54回江戸川乱歩賞受賞。

このところ読んだ乱歩賞に比べれば、良い方でしょうか。舞台が昭和30年代だったためか、昔の乱歩賞作のような印象でした。
暗くて地味な話なので、好みは別れると思います。あと解決も。
私自身が楽しんだかどうかも微妙なところ。
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横関大『再会』


再会 (講談社文庫)再会 (講談社文庫)
(2012/08/10)
横関 大

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幼馴染の小学生四人組は、ある経緯から手にした拳銃をタイムカプセルに入れ埋めてしまう。
それから23年後、彼らの住んでいた街で、その拳銃を使った殺人事件が起こる。別れた夫婦、刑事、被害者の弟として再会した4人。誰が拳銃を掘り出したのか?何のために?
というお話。第56回江戸川乱歩賞受賞作。

舞台は良かったんですけどねぇ……という感じ。
事件は二つ。ひとつは今、ひとつは過去、二つが上手く絡めば面白かったのですが、ここがイマイチしっくり来ない。あるひとりの捜査員がしつこく食い下がって過去の事件を暴くのですが(なぜ彼がそこまで頑張ったのかは書かれますが)、よく考えれば、過去の事件を突きまわさなくても今の事件は解決できます。
また、何で今なんだろう?という疑問もちらほら。舞台が整って何年も経ってから事件が起こるわけですが、その何年間かこの小さな街で顔も合わせず、何も起こらず、何で過ごせたんだろう?確かに事の起こるきっかけは描かれますが、それがいかにも小さく感じました。
そもそも私だったら、こんな経験をしていたらこの街に帰ってこないでしょう。つまりそもそも舞台が整わない。
……それじゃ話が始まらないか。

解説には「完成度の高さ」について書かれていましたが、正直なところ、取り立てて良かったようには思えませんでした。もっとも、解説氏も「乱歩賞受賞作としては八年ぶりにテレビドラマ化」を完成度の高さの証左に挙げているくらいなので、どこまで本気で書いているのか疑問符が付きますが。
読んで損したとは思いませんが、乱歩賞の期待値よりは低めでした。

川瀬七緒『よろずのことに気をつけよ』


よろずのことに気をつけよ (講談社文庫)よろずのことに気をつけよ (講談社文庫)
(2013/08/09)
川瀬 七緒

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老人が自宅で惨殺体で発見され、縁の下には呪術符が残されていた。孫娘の真由は真相を調べるため、廃屋さながらのあばら家に住む、呪術を専門とする大学非常勤講師 仲澤を訪ねて……というお話。
第57回江戸川乱歩賞受賞作。

悪い意味でアニメ的(誤解無いように書いときますが、私アニメは好きです。足を洗って久しいですが、元ヲタくらいは名乗ってもよいかも)
初対面、お互い名乗りもしないうちに、
主人公は
「アポ無しの珍客は美少女というわけか。いや、美少女と言い切っていいもんかどうか、若干検討の余地があるかもしれんな。」
云々、と言い放ち、
ヒロインは
「おっしゃる通り、全部正解。さすがです。」
とか答えちゃう。
アニメの文脈ではこういう場面はよくあるし、おかしくありませんが、それはアニメという表現方法は口に出す会話と心中の独白の区別が曖昧なところがあるから許されるのであって、小説で同じことをやれば、ただただ変な人なだけ。だいたい「〜あるかもしれんな。」って、お前何歳だよ、そりゃ書き言葉としては存在するし、仲間内のおふざけとしては存在するが、現代の三十代の男が初対面の美少女相手には言わんだろう。
では主人公をエキセントリックにしたかったのかと言えば、とてもそうは思えない。例えば京極夏彦の描く京極堂ならば違和感ないが、あちらは時代設定も京極堂のキャラも、それを言わせるような作りになっている。本作では、冒頭から『呪術を専門にしても食っていけない』みたいなことを書いている時点で、ぶっ飛んだ主人公とは思えない。

呪術については、うーん、よく調べたのだとは思うのですが、ちょっと身についていないような印象が強い。例えば「この地方にはこんな風習があって」みたいな実例を畳み掛けるように積み重ねないと、京極堂や、高田崇史描く桑原崇のような迫力は出ないのでは。
途中の、殺された老人は何者だったかを調べていくところは面白かったんですけど。

全体を通してはまあまあなのですが、歴代の乱歩賞と比べてしまうと、ちょっとどうかな?という感じでした。

末浦広海『訣別の森』


訣別の森 (講談社文庫)訣別の森 (講談社文庫)
(2011/08/12)
末浦 広海

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陸自のヘリパイロットだった槇村は、ある事件で自衛隊を罷免となり、今はドクターヘリのパイロットとして道東(北海道東部)の空を飛んでいた。
ある時、墜落した取材ヘリを発見。救助したパイロットは陸自時代の部下 武川だった。罷免となった事件とも関係のある元部下との再会に落ち着かない気持ちでいたが、その武川は入院先から失踪する。
過去の事件と今の事件、知床の自然が絡まり、事件が進んでいく、というお話。
第54回江戸川乱歩賞受賞作。

うーん、力尽くでしたねぇ、というのが最初の感想。
過去の事件はともかく、今の事件はずいぶん無理矢理感が強く、さらに集まってきた人達の行動動機も弱い。理解できないことはないのですが、それでそこまで頑張るか?という感じ。書くとネタバレなのでぼかしますが、ある人とある人の関係をもう少し丁寧に描くだけで、ずいぶん印象が変わったと思うのですが。
終わり方を見ると、熊谷達也やジャック・ロンドンなどの余韻を目指したのかもしれませんが、声高に「北海道の森はいいよ」という人に「いや、あなたが見てきたのは大自然じゃなくて、町営キャンプ場ですから」というような気恥ずかしさを感じたりして。もう少し本当に書きたくて自然について書いていたなら良かったのですが。
最近乱歩賞は、すっかり傾向と対策が出来上がっていて、その対策のために入れられる要素が、なんか作品のバランスを崩しているような。
今やプロじゃないと受賞できない乱歩賞ですから、そういう意味では、ねじ伏せ方の上手さはプロの実力を持った作者と言えるか。面白くないわけではないのですが、ちょっと残念。

遠藤武文『プリズン・トリック』


プリズン・トリック (講談社文庫)プリズン・トリック (講談社文庫)
(2012/01/17)
遠藤 武文

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市原の交通刑務所に収容されていた宮崎は、同じ受刑者の石塚を殺害して逃亡。何故刑務所内で?どうやって刑務所内で?どうやって逃亡した?と謎を追ううちに……というお話。
第55回江戸川乱歩賞受賞作。

いやぁ〜なんでしょうね、これ。
交通刑務所の記述はかなり細かい。よく調べたなと思う。それを使ってのトリックも悪くないのですが、え?と思うところなきにしもあらず。
さらに、その後の展開となると……この人何のために出てきたんだっけ?と思う人や、あのエピソードはどうなったんだっけ?と思うところも、あちこちに。話を複雑にしたいがために、訳がわからないことになっているような。
乱歩賞得意の社会性、例えば交通事故の加害者と被害者、法体系の問題点(この作品の応募時のタイトル)なども、触れつつも、深堀したわけでも作中の犯罪と深い関係があるわけでもない。受賞対策で入れたでしょう?と疑わざるをえない程度。
そして解決編となると……

残念ながら乱歩賞としてはかなり出来悪し。